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三菱製紙(株)総合研究所R&Dセンター
石黒 守 |
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はじめに |
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一般に蓄熱法は大きく分けて、水や岩石、金属塊などの高比熱の材料を冷やしたり加熱して熱を蓄える顕熱蓄熱法と、物質が融けたり凍ったりする際の相変化時に発する熱を利用した潜熱蓄熱法に分けられる。後者の潜熱蓄熱材として最も身近で安価な材料として挙げられるのは氷であり、冷却材、保冷材として一般的に古くから用いられている。氷以外の蓄熱材としては、無機系の共晶塩化合物と有機系化合物がある。両者の特徴を表1及び表2に示す。筆者は有機系蓄熱材が、無機系の共晶塩化合物とは異なり、材料化合物の適当な選択により幅広い温度域にわたってきめ細かく蓄熱温度を設定できること、また多数回にわたる融解と凝固の繰り返しに対しても極めて安定であることに注目した。有機系蓄熱材はそのままでは実用範囲が限定されることから、このものをマイクロカプセルに内包させた蓄熱材マイクロカプセル(以下、HSカプセルと称する)の、開発研究を行ってきた。その結果、0〜60℃の範囲において約5℃刻みで細かく蓄熱温度域を設定することが可能であり、熱的にも、また融解⇔凝固の多数回の繰り返しに対しても安定なマイクロカプセルが得られる様になった。 |
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| 2. |
.HSカプセルとは |
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マイクロカプセルとは、水に不溶性の樹脂皮膜中に液体や固体の芯物質が内包された微少な容器であり、様々な産業分野において用いられている3)。HSカプセルに内包する有機系蓄熱材としては、脂肪族炭化水素化合物、アルコール、エステル、脂肪酸等が挙げられるが、以下のような特徴を持つ化合物であるノルマルパラフィンを取り上げた。
1.構成する炭素数が増す毎に融点が上昇し小刻みな融点設定が可能である。
2.比較的マイクロカプセル化し易い。
3.複数の化合物を混合することにより任意の融点を設定することが可能である。
マイクロカプセル化法としてはコアセルベーション法、インサイチュー法、界面重合法等が用いられ、3) 多数の球体微小粒子が水中に分散された牛乳のような乳白色の液体として得られる。HSカプセルの外観と電子顕微鏡写真を、写真1と写真2に示す。 |
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| 3. |
HSカプセルの特徴 |
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HSカプセルは、図1に示すような構造をしており、内包された蓄熱材はカプセルの内部で、融点以下への冷却により凝固を、また融点以上の加熱により融解を繰り返す。ノルマルパラフィンは水になじみにくい性質を有するが、マイクロカプセルにすることで、分散安定性の高い水性スラリー液として扱うことができる。さらに、その分散媒である水を除去することにより、内容物の融解凝固に関わらず、常時固形の蓄熱材として取り扱うことができる。次に各々の形態における特徴について説明する。 |
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3-1. スラリー液状態「HSカプセル−L」の特徴 |
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HSカプセル−Lの特徴を図2で説明する。水だけが入った容器を加熱すれば、水温は図中の点線のように一様に上昇する。ところがHSカプセル−Lの場合には、蓄熱材の融点付近に温度が達すると加えられた熱エネルギーが相変化に費やされるため、温度が変化しない領域が生じる。冷却した場合も同様であり、加熱と冷却を何回繰り返しても同じ現象が見られる。この温度一定化部分は液中のカプセルの含有量が高いほど長時間持続する。
HSカプセル−Lは固形分濃度が40〜45%(w/w)の白色のスラリー液であり、マイクロカプセル粒子の粒径は約1〜10μmの範囲で設定可能である。融解と凝固を多数回にわたって繰り返しても、マイクロカプセル粒子同士の凝集が生じない極めて安定な分散液である。 |
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3-2. 固形状態「HSカプセル−P」、「HSカプセル−Z」 |
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HSカプセルLはスラリー状態であるが分散媒である水を乾燥、除去することにより以下の様な使用方法が可能となる。
1.HSカプセルのシート化:HSカプセル−Lを基材に含浸させた後に乾燥させる方法。基材としては、紙、不織布、繊維、フィルムなどで、比較的親水性の高いものであれば使用可能であり、シート状の蓄熱材を得ることができる。
2.HSカプセル−P;HSカプセル−L自体の水分を除去することにより、無数のマイクロカプセル粒子が集合した粉体(写真3参照)にする方法。HSカプセル−Pは粒子径が約20〜300μmの粉末状である。
3. HSカプセル−Z;HSカプセル−Pを粒状に成型して、ペレット状(写真4参照)にする方法。
HSカプセル−Zは円柱状のペレットで、短径は約1mmから10mm、長径は短径の数倍程度の範囲で設定可能である。 |
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3-3. HSカプセルの耐久性 |
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耐熱性:
蓄熱温度域は約0〜60℃の範囲において、約5℃刻みで設定することが可能である。熱分析装置(DSC)で測定した蓄熱材固形当たりの融解熱量は、蓄熱温度域により異なるが、おおよそ100〜200
kJ / kg ある。同じく熱分析装置(TGA)を用いてHSカプセル−Zの空気中での耐熱性を調べてみると、150℃までは安定であり、この範囲の温度域で加熱や熱風乾燥等を行う場合は問題ない。但しそれ以上の高温に長時間曝されると不安定になることがある。
耐溶剤性:
HSカプセルの耐溶剤性は溶剤の種類により異なるが相対的にアルコールやケトンなどの極性溶剤と比較して脂肪族や芳香族の非極性溶剤に対してより高い耐性を有する。しかしマイクロカプセル被膜の種類、厚み、製造条件を組み合わせることにより極性溶剤に浸析しても軟化、破壊することがない高い安定性を有するマイクロカプセルが得ることも可能である。 |
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| 4. |
HSカプセルの用途展開 |
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HSカプセルは上記形態に応じ様々な用途に応用が可能である。以下に、いくつかの用途展開について説明する。 |
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4-1. 衣料、寝具用途への応用 |
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HSカプセル−Lを布地や織物に含浸させた後に乾燥させることにより得られた生地は、通常の布地と変わらない風合いを保ちつつ、温度安定性に優れた素材となる。これらの生地を用いた下着、上着、防寒着、手袋等の衣類を身につけることにより、自らの身体から放出された熱が蓄熱カプセルに蓄えられ、環境温度が大きく変化しても衣服内温度が変化しにくく、急激な温度環境の変化があっても、また運動時でも安静時でも、快適な着心地を維持することが可能となる。被服材料以外にもシーツ、ベッドパッドなどの寝装具に加工することにより、夏はひんやり涼しく、冬は暖かい感触が得られる。
HSカプセル−Zは、布団、枕、ベッドパッド等の寝装具の中に充填加工し、蕎麦殻、プラスティックビーズ等の枕芯材と併用することも可能である。 |
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4-2. 建築材料への応用 |
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約15〜30℃の「快適温度域」とされる蓄熱材を含むHSカプセルを床、天井などの躯体中に保持させてボード状に加工することができる。このボードを配置した室内においては、夏であれば朝方の冷気や冷房の冷熱をボードが吸収して、日中の急激な温度上昇を遅らせることができる。冬は逆に、昼間の太陽熱や暖房熱がボード中に蓄えられ、夜間の急激な室温低下を遅らせることが可能となる。ボード作製に用いられるHSカプセルは、−L、−P、−Zの何れのタイプでも使用可能で、セメント、珪酸カルシウム、ロックウール、酸化マグネシウム等の建築材料素材の中に、骨材を扱うのと同様に練り込むことができる。このボードは冷房や暖房費が節約できる省エネ建材となる。またボード中には、微少なマイクロカプセルが均一に分散しているため、見かけ上通常の建材と全く変わらず、切断、釘打ちなどが自由に可能で現場施工に何ら制約を受けることはない。5)
最近普及が著しい蓄熱式床暖房用蓄熱材として上記ボードを用いることにより温度変化の少ない、
しかも使用電力を削減可能な省エネ性の高い床暖房システムへも応用可能である。 |
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4-3. その他への応用 |
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・HSカプセルを電子部品の温度上昇抑制に用いる提案がある。また、車道、歩道、橋梁にHSカプセルを埋設して日中に太陽光のエネルギーを貯え、夜間の凍結を防止する方法についても検討が進んでいる。各タイプのHSカプセルをさらに包材にパックして、長時間適温が持続する保冷材や保温材として利用する検討も行われている。
・HSカプセル−Pを溶剤またはワニス中に分散して印刷インキ、塗料として利用することにより直接壁や床材に吹き付け加工して温度維持性に優れた快適な室内環境を作ることも可能なとなる。 |
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| 5. |
おわりに |
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我々の快適な生活は電気、ガスなどの膨大なエネルギーの上に成り立っており、これらのエネルギーは決して無尽蔵に存在するものではない。また最近では世界的規模で地球温暖化の問題も叫ばれている。限りある資源を有効且つ大事に使い続けることは、産業界全体として重要なテーマである。熱エネルギーを蓄えて、必要なときに取り出すHSカプセルは、この時流に即したものであり、様々な分野で用いられていくことを期待している。 |
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<参考文献> |
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1)蓄熱・増熱技術, 蓄熱・増熱技術編集委員会, アイピーシー (1985).
2) 関信広, 蓄熱工学TU, 森北出版(株)(1995).
3) 森賀弘之, 入門・特殊紙の化学, 新高分子文庫 (1984).
4) 近藤保, マイクロカプセル<その機能と応用>, 日本規格協会 (1991).
5) 近藤武士,射場本忠彦, 日本建築学会計画系論文集第540号, 23-29 (2001).
6) 鈴木胖,伊藤弘一, エネルギー貯蔵システム, エネルギー資源学会 (1992). |
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